1. Top » 
  2. ショートショート » 
  3. 週刊 トモ松さんのショートショート Vol.7    『 落ち武者 』

週刊 トモ松さんのショートショート Vol.7    『 落ち武者 』

『 落ち武者 』


「殿、もはやこれまでかと…」

「そうじゃのう、中兵衛
 あれほどいた家臣も残っているのは、左近、中兵衛、右近 の三人のみ」

「先ほどから追手の気配が感じられます
 落ち武者狩りで雑兵や農民の手にかかるよりはここで」

「ふむ、ここで潔く腹を切るか…」

「殿ぉっ~!(涙)」

「殿、介錯はこの中兵衛が!」

「わかった、頼むぞ、中兵衛!」

「いざ!」

「んっ? いや、ちょっと待てーい!」
 (まてまてまて、あわてるでないぞ、俺自身!
  こいつらさー、俺の首を手土産に敵に寝返るつもりじゃないの、これ
  正直、こいつらにはいつも無理難題ふっかけてストレス解消してたからなぁー
  屏風の虎を捕まえろって言ったら、こいつら涙目だったしなー
  それに追手の気配なんて全然感じないんですけど
  いやじゃ、切腹などやっぱいやじゃ! )


「どうされましたか、殿?」

「皆の者、腹を切るのはいつでもできる
 所詮、わしは敗軍の将、雑兵に殺されようが農民に殺されようがかまわんのじゃ
 それより最後にわが領地の美しい景色を見ながら死にたいと思うぞよ」

「殿ぉっ~!(涙)」

 
 (あぶねぇ、あぶねぇ
  だいたい捕まる前に自分から死ぬなんて冗談じゃねぇーつーの
  やる前から負ける事考えるやつがいるかよ
  中兵衛のやつ、切腹やめたら凄い嫌な顔してたけど、あいつ絶対俺の首狙ってんな
  あ、そういえば、昔あいつの嫁むりやり側室にしたんだった
  絶対、俺の事恨んでるわ~ )



さて戦国時代も後半となると合戦は何万人規模の戦いとなってくる。
でも本当にそんな大合戦が行われていたのだろうか。

実際のところ本気で戦闘するのは数百から数千人規模であり、
残りは人数集めの傭兵や農民兵が戦うふりをしながらわいわい騒いでいるだけなのである。

万単位の規模の人間を思う通りに動かすなど無線や信号機がない時代では限界がある。
戦の勝敗とは、本気で戦う兵隊がいなくなり農民兵たちが逃げ出しはじめ部隊が混乱に陥る事で決着がつく。

つまり戦が強い武将とは、その武将のために本気で戦う兵隊をいくら持っているかであり
戦上手の武将とは、傭兵や農民兵が混乱に乗じて逃げ出さないように手綱を締めておく
人員管理の上手な武将という事でなのである。

織田信長が桶狭間の戦いで三千人の兵で、三万人の今川義元を破ったり
関ヶ原の合戦で小早川秀明の一万五千の軍を大谷吉継がわずか六百の兵で
押し返したりした事からも軍の総数ではなく、本気で戦う兵隊が何人いるか、
いかに自軍を混乱させないかが戦にとって重要だという事がわかるはずだ。

その後、負けた武将の兵隊は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、
名のある武将は落ち武者狩りと称して、敵、元味方、農民から一斉に狙われるのである。



「泣くでない、皆の者
 さぁ、故郷を目指して進もうではないか」

「わかりもうした、殿
 この左近に道案内をおまかせください
 ここよりもうしばらく先に、われらが領地を見渡せる高台がございます
 われわれの最後の地はそこといたしましょうぞ」

「え? そ、そうか、ではそこに向かおうではないか」

「ははっ!」


 (左近め、あいかわらずトンチンカンな事、言いやがって
  そんな場所に案内しろってんじゃねーよ、領地まで帰るって言ってんだろが
  空気読め!このばかちんが!
  つーか、こいつも俺の首ねらってんの?
  あ、そういえばこいつも年貢米ちょろまかし疑惑で、もうちょいで首はねるとこだったんだ
  ふむ、こいつも信用できんぞな )

「よし、左近は道案内のため先頭を歩け、その隣に中兵衛、次にわしで最後尾が右近じゃ」

「ははっ!」


 (左近と中兵衛はわしの前を歩かそう、
  怪しい動きをしたら後ろから一気にぶった切ってやるわい
  右近は後ろから敵に襲われた時のための盾として最後尾じゃ、ぐへへ)


「落ち武者じゃー! 落ち武者がおるぞー!」


「しまった、落ち武者狩りに見つかったぞ!」

「くそ、かなりの人数じゃ!」

「殿!この中兵衛に殿の兜をお貸しくだされ!」

「なに!(何言っとんじゃ、頭わられたらどうすんじゃい!ついに本性だしやがったな!)」

「中兵衛が殿の兜をかぶり影武者となり敵をひきつけまする、その間にお逃げなされ!」

「うっ! (えっ?マジで!マジでいいの?)」

「殿!ここは中兵衛にまかせましょう!」

「殿!中兵衛は殿に仕える事ができて幸せでしたぞ!」

「中兵衛…」

「さあ、もたもたなさるな、さらば!」

「おい!雑兵ども!大将のわしの首を取って名をあげるが良いぞ!さあ、かかってこい!」

「中兵衛ー!」




(失敗じゃ、大失敗じゃ…
 信じていいのは中兵衛じゃったのに…
 だいたいずっと昔の女の話ごときを、男気あふれる中兵衛が気にしてるわけなかろうもん
 大失敗じゃ…

 それにくらべて左近の根性なしめっ!
 なにが ここは中兵衛にまかせましょう じゃい!
 あいつに兜わたして お前が行けや! って言っとけば良かったんじゃ
 あわててたんでそこまで気が回らんかったわい
 大失敗じゃ~ ) 


「殿、高台につきました、見てください美しい我らの故郷を
 ここなら最後の場所にふさわしい」

「待て!左近よ!」

「いかがなされた、殿?」

「まだ中兵衛が来ておらん」

「しかし、中兵衛は…」

「中兵衛はきっと戻ってくる、わしは信じておるのじゃ
 中兵衛が戻ってくる前にわしらだけが簡単に腹を切ったら申し訳がたたんではないか」

「殿ぉっ~!(涙)」

「泣くでない、ところで左近、このへんに村はないのか?」

「もうしばらく歩くと小さな村がございますが」

「よし、そこまで歩いて中兵衛を待ち、もし中兵衛が戻ってこなければ
 そこで腹を切ろうではないか?」

「しかし、殿 お言葉ですが村の者が味方するとはかぎりませんぞ
 へたすれば我々を敵に引き渡す可能性もありますぞ」

「その村はわしの領地なんじゃろ?」

「はい…」

「ならば大丈夫じゃ、わしは良い殿様じゃぞ、さあ急ぐのじゃ」

「ははっ」


 (あぶねえなー、とりあえず中兵衛にかこつけてごまかしたけどな
  つーかあいつ戻ってくるわけねーじゃん、あんなにいっぱい敵がいたのによー
  さっくりやられとるわい)




「殿、村にはつきましたがくれぐれも注意してくだされ」

「左近よ、わしはお前と違って領民に人気がある、大丈夫じゃ」

「落ち武者じゃー! 落ち武者がおるぞー!」

「殿、村人に取り囲まれましたぞ」

「これこれ、農民あわてるでない わしはここの殿様じゃ
 それより腹がへってかなわん、何か食べ物をもってまいれ!」

「はあっ!?」
「お前、もしかしてここのバカ殿か?」

「バカ殿とはなんだ!」

「ばかたれい!お前のせいで俺たちがどんな苦しい生活を送ってると思ってんだ、あ?」

「え…」

「このバカ殿め、首をはねて長年の恨みはらしたるわい!」

「ちょ、ちょっと待て、話せばわかる」

「待つわけねえだろ!うりゃー!」

「殿!あぶなーい!」

「うへっ!この侍が急に飛び込んできたからこいつのほう切っちゃったよ」

「左近ー!大丈夫かー!」

「殿、殿の身を守るのが拙者の仕事でござる
 殿の身代わりで死ぬなら本望でござる…」

「左近って… おいバカ殿、この武将は左近様か?」

「そうじゃ、左近じゃ」

「なにー!左近様に大変なことをしてしまった、みんな!はやく手当を」

「え?」

「去年の凶作の時、こっそり年貢をへらしてくれたのが左近様じゃ
 みんな食うものがなくて困っている時に私財をなげうって
 わしらに飯を食わせてくれたのが左近様じゃ」

「バカ殿は知らんかったのか?」

「え、そうなの」

「どうしようもないバカだのぉ、けちのバカ殿と違って左近様は、このへんの村の命の恩人じゃ」

「そうなんだ…」

「おいバカ殿!左近様は我々が責任をもって守る
 お前たちがこの村に来た事は誰にも言わん
 だから敵に見つかる前に早々に村から立ち去れ」

「お、おう」

「殿、最後までお供できず申し訳ない」

「左近っー!」



(くそー、また間違った
 信じるのは左近じゃったのに…
 左近が年貢をちょろまかしてるなんて噂を信じて首を切ろうとしてたなんて
 しかも自分の金で農民に食料を買っていたなんてちょーいいやつじゃがな
 そんで一番役立たずの右近を残してしまったがな…)


「殿、このへんでもう腹を切りましょう」

「ぐぬぬ… いや待て右近
 わしもさっきまで、もうここまでと思っていた
 しかし、今はなんとか生き延びて左近を迎えにいかねばなるまいと思っておるのじゃ」

「殿ぉっ~!(涙)」

「泣くでない、ところでここからどっちに向かえばよいのじゃ?」

「城までの裏道は右近が知っております、この道を使えば敵に見つかる危険はほぼないはずです」

「おう!よし、では先を急ごうぞ!」

「殿、ただし最後に関所をひとつ越えねばなりませぬ
 問題はその関所が敵の手に落ちている場合です」

「そこをかわせんのか?」

「いや、どうしてもあの関所を通らねば城には戻れませんぞ」

「わかった、とりあえず関所までいってみようぞな」



「殿!あれが関所です」

「おう! むっ!関所にかかっているあの旗印
 あれは隣国のバカ殿の旗ではないか!
 ぢぎじょ~、あいつワシが戦してるうちに領地かすめ取りやがったな~」

「殿、それはまだわかりませんぞ
 右近に策がありますのでここはおまかせください
 殿は私の合図があるまでここを絶対に動かないでください」

「もう、どうなってもいいや
 わしはここを動かねばよいのだな」

「はっ」

 (つーかさー、今回の戦って、すっとぼけて逃げとけばよかったんだよねー
  それなのに、このバカ右近が戦に参加しないと忠義が立たないとか武門の名折れだとか
  騒いだからしぶしぶ参加したんだけど、こいつ負けるのわかってて参戦したんじゃない?
  そういえば隣国のバカ殿となんか話し合ってたな
  実は隣とつるんで負け戦に乗じて、この国のっとるつもりだったんじゃないじゃろか?
 
  右近は頭もきれて上昇志向強かったからなー
  そのへんがムカつくから今年の正月
  全家臣の前でスルメで頭ペチペチ叩きながら説教かましたんだっけなー
  最後にあいつの頭にみかんのっけって 鏡もちっ!とかやったんだったなー
  まだ、怒ってるだろなー、いかん、やっぱ信用できんぞな


って、あいつ関所でこっち指さしてなんか叫んどるがな!
うわ!鉄砲隊ぞろぞろでてきたがな!
やっぱ裏切りやがったな!あのばかたれめ!
ん?なんだ右近のバカのあの動き?
伏せろか?
いわれなくてもこんだけ鉄砲むけられたら伏せるがな、ボケ!

パン!パパパン!
ぎゃー!

あれ?あいつら誰に向かって撃ってるんじゃ?
うわっ!後ろに追っ手がいっぱいきてるがな!
あの鉄砲隊は敵を撃ってるのか? 隣国の軍がなんでじゃ?

「殿っー!」

「右近、これはどういう事じゃ?」

「実は勝手ではございますが出陣前に隣国と同盟を結んでおりました
 もし我々が戦で負けた場合は、隣国が関所を守り敵を通さない盟約となっておりました」

「え、なんでそんな大事な事言わないの?」

「急な出陣で時間もなかったことですし、それに殿は同盟の話には反対すると思いまして」

「そりゃそうだけどさー」

「盟約が守られていない可能性もありましたので、私が最初に確認にいきました
 すると後方から殿に敵がせまっておりましたので鉄砲隊を」

「そうか… あれ? ということはわしらは助かったのかえ?」

「はい! 殿! ご安心くだされ!」

「助かった…」

「殿! こっちに向かって歩いてくるあの侍、あれは?」

「中兵衛!」

三人は抱き合って泣きながら喜んだ
早く左近を迎えに行こう、わーい!



みなさま、右をご覧くださいませ。
ここがかの有名な主君を最後までまもった忠義の士の墓でございます。
彼らの墓は、殿様を取り囲むように配置され死んでからも殿様を守っているのでございます。

「いい話じゃのう!素敵やん!」

「きっと殿様も家来もお互いに信頼しあっていたんだろうね」

「ここまで部下がつくすとは、きっと素晴らしい殿様だったんだろうね」

「見習いたいもんですなぁ」



歴史とは勝者の歴史、生き残ったものが正義なのである。

Page Top

カレンダー
プルダウン 降順 昇順 年別

07月 | 2017年08月 | 09月
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -


FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
最近の記事+コメント
管理画面
にほんブログ村 バイクブログへ
にほんブログ村 にほんブログ村 バイクブログ ヤマハへ
にほんブログ村

ランキングやってみます      ポチッと  m(_ _)m

カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
お話しようYO!
プロフィール

 トモ松

Author: トモ松
青森県八戸市 在住

盗んだバイクで走り出した15の夜
(姉の原チャリ ヤマハ・キュート)

あれからずっと走ってます。

リンク上等っ!(*`Д´)ノ夜露死苦ぅ!

素敵なブログを紹介しますよ          ポチッとどうぞ(。・ω・)ノ゙

リンクフリーダムです       リンクしてみる?( ̄ー ̄)ニヤリッ